天漂空録

彼らは閉じた世界で、もがき、足掻き、必死に生きる

その参 「三の異端 ~闇の章~」

髪を風に揺らされながら、青年は木に凭れ掛かっている。 心地良さそうに眠っているその顔は、幼子の様に穏やかだ。 その青年の元に、一人の少女が駆け寄る。 少女の気配を察知し目が覚めたようで、青年は瞼を重そうに開いた。 「蘭」 青年が微睡みながら少女…

その弐 「三の異端 ~炎の章~」

夢を見ていた 俺が? ・・・・・・否、“あいつ”が見ていた。 月雲家から帰ってきた俺は部屋にある鏡台に手をかけ、鏡の中の自分を見つめていた。 目に刻まれた印は、嫌でもあの日のことを容易に思い出させる。 自分の力の足りなさを思い知らされた、あの日の事を。…

その壱 「三の異端 ~雷の章~」

何一つ、不自由のない生活をおくっている 何一つ、変わり映えの無い日常を過ごしている 妖と戦い、人々に平穏をもたらし、束の間の休息を与えられ・・・・・・それを繰り返す 俺にこの“痣”と、昔の記憶がないこと以外は、至って平穏だ。 浅紫色の髪を揺らし、女性…

その零 「天に神の漂いし空の下の記録」

何一つ、不自由のない生活をおくっていた 何一つ、変わり映えの無い日常を過ごしていた 妖と戦い、人々に平穏をもたらし、束の間の休息を与えられ・・・・・・それを繰り返すだけだった。 今日までは この時までは。 今、目の前に佇んでいるのは夢で何度も出会った…